Google Ads、旧Google Adwordsの検索広告(GKT/Google Keyword Targeting)で、運用指針のアップデートが発表されました。

その名も、MUGEN(むげん/無限)・・。
アカウント構造はHAGAKURE(はがくれ/葉隠)に従って作りましょう
だったり、
運用はGORIN(ごりん/五倫)に則って効率化しましょう
だったり。
今度は何を言い出したのか、MUGENではどんなメリットがあって、何ができるようになることなのか。
チェックしていただきたいと思います。

旧来の運用・HAGAKURE・GORIN・MUGENの歴史
4種の違いをざっくりと
年表

2015年夏ごろまで、旧来の運用が中心でした。
GORINはHAGAKUREを前提とした話、MUGENはGORINを前提としつつ発展的に解消したものです。
それぞれが入れ替わるフェーズにおいて、どのようなことが起こったのか。
簡単におさらいしていきます。

ちなみに、アカウントを管理する単位は以下の3つで、それぞれ最低限の役割を記載しています。
アカウント:広告主を分ける単位
キャンペーン:予算を管理する単位
グループ:キーワードとクリエーティブを束ねる単位
旧来の運用→HAGAKURE
旧来の運用は、そのコンセプトを”人間が、細かく管理する”としていました。
ですので、アカウントはできるだけ細かく、1キャンペーン1グループ1キーワード、なんてまとめ方も珍しいものでもなんでもなく。
実際、機械の側の学習能力が全然イケてなかったために、まとめてしまうととんでもないことになっていた、そんな時代でもあります。

そんな時代を打ち破るべく登場したのが、HAGAKUREです。
HAGAKUREは、そのコンセプトを、”検索する人のモチベーションに合致したアカウント構造”にすることとしています。
ですので、同じようなモチベーションで検索しているキーワードは同じ広告グループで、同じTDを出すことを基本としています。(HAGAKUREの重要な考え方の一つ、アドユニークネスの根拠です)
例示すると、こんな感じでアカウント構造が変わりました。

1キャンペーン1グループ時代の運用・・ゴリゴリのところが勝ったんです・・・。

HAGAKURE→GORIN
HAGAKUREから約2年、GORINの考え方が出てきました。
・・2年も空いた、のですが、それはHAGAKURE普及に2年かかったから、とも言えます。
HAGAKUREのコンセプトが、”検索する人のモチベーションに合致したアカウント構造”であるのに対し、GORINのコンセプトは、”ユーザーが求めた情報を正しく・適切なタイミングで届ける“ことです。
つまるところ、GORINはHAGAKUREの上位互換、となります。

GORINを図解すると以下のイメージです。(ちなみにGoogleから解説記事も出てます)

アカウント構造はHAGAKURE+入札のお話で、HAGAKUREのコンセプト、単純化(simplification)&アドユニークネスを踏襲しつつ、自動入札の方法を選んでいきましょう、というお話です。
単純化とはつまり、1キャンペーン1グループ1KWのような細かい管理ではなく、検索者のモチベーションに沿ってキャンペーン・グループをまとめていくこと。
アドユニークネスとはつまり、単純化されたアカウント構造ならば、違うグループには違うモチベーションの人が該当するはずなので、グループ間で広告が同じになることはない、というもの。
自動入札を選ぶとはつまり、eCPC を活用後、コンバージョン数が増えたら目標コンバージョン単価制(=自動入札)へ移行しましょう、というもの。
eCPCって、自分で基準CPCを決めなきゃいけないですからね・・。そんな手元のことよりも、中間チェックのポイントはCPAでしょ?途中過程はGoogleに任せてよ、という論理です。

リーチに関する言及は2点です。
検索パートナー面(biglobeなど)にも広告を出しましょう、というお話と、
予算によるImpシェアの損失に気をつけましょう(出したいならお金ちょうだい)というお話です。
リーチ、というよりもむしろ、機会損失の防止、といったほうが正しいのかもしれません。
狙っている人にもれなく出しましょう、というだけのことです。後述の、MUGENにおけるリーチとは全く異なります。

ターゲティングとは、狙っている人をより精緻化していきましょう、という論理です。
そのための手法として、RLSA(検索者へのリタゲ)やDSA(指定したURLを元に自動でKW/TD作成)が挙げられています。
当時のDSAはそれはそれは・・目も当てられないものでした。実際、GORINではおまけ的な扱いを受けています。
RLSAは、サイトに来た人を自由にリスト化し、そのリストを元に入札の強弱を”通常の入札に対する比率で”決めるものです。
例えば、試算ページまで来た人が、次に社名を含まないKWで検索した時に、通常よりも30%入札を強めてリスティング広告を出す、といったものになります。
逆に、RLSAを使って、契約者マイページに到達した人には入札比率を-100%とする(=広告を出さない)なんてことも行えます。
商材特性次第ですが・・。

広告フォーマットとは、TDの表示方法と、TD以外のオプションの話です。
TDの表示方法は広告ローテーションと呼ばれ、広告グループ内の複数の広告を相対的にどの程度の頻度で配信するかを指定する機能です。
つまり、勝ちクリエーティブを自動で選べる、ということ!!
が、勝ちを決める判断基準がミソで、クリック数最大化なりCV数最大化なりを選んでも、え、本当にこっちが勝ちなの?CTVRは逆なのに?みたいな現象は多々起こります。。
Googleさんおまかせ!ももちろんありですが、余裕があるときは均等配信も手の一つです。
TD以外のオプションは、コールアウト、サイトリンク、拡張テキストなどがあります。
Yahoo!にも同様の機能があるので、全て使いこなすのが○です。
なぜなら、占有面積が増えるから!!&TDの飛び先以外に刺さるリンクに直接飛んでもらえるから。
拡張テキストは今や当たり前のTitle2本、ってやつです。(もうすぐ3本になる)
構造家スニペッドもこの時期だったと思いますが・・後からリリースだったかもしれません。



効果測定は、ビジネスのステージに応じた評価指標 (=KPI) を採用すること。
最終的に、評価指標に沿った最適化を実施することが測定のゴールです。
・・まぁその、入札戦略をeCPCから変えさせたい(スマート自動入札を導入させたい)んだなーって感じのやつです。
HAGAKUREの上位互換、GORINの時代で終わるかと思われました。

GORIN→MUGEN
が、2019年1月、GORINに変わる考え方として、MUGENが登場します。

ファネル最下部、デジタル施策レイヤーの効率化を求めているのがGORIN、
ファネル上部、ビジネスの成長を求めていくのがMUGEN
ですので、目指すものも当然変わってきます。

MUGENで目指すのは、ビジネスの成長、いわゆる見込み顧客、その中でも特に優良な見込み顧客に対するアプローチです。裾野(価値のあるImp)を広げることで、市場を開拓していくことになります。

非指名/一般検索系のKWで、見込み顧客を捉える、直接の獲得とは少し遠い語句を入れたことはありませんか?
その部分を、サイト内のコンテンツに基づいて広げていく、部分一致やフレーズ一致さえも凌駕するのが、MUGENの一番の特徴です。詳細は後述します。

横比較表
機械学習側が賢くなったことで、人間よりも機械の方が最適化できる時代になって来ました。
もともと機械がオークション主だったので、当たり前と言えば当たり前ですが・・。

これまでの入札管理官(トレーディングデスクの一部機能)は役割を奪われるべき、という判断になります。
その意味では、AIに仕事を取られた、と言えますね。
が、AIを管理監督し使いこなさなければならないことになるので、仕事の質が変わっただけなのですが・・丸投げする方もいらっしゃり、悩ましいところです。

GORINからMUGENへ、アップデートの背景
公式回答:レイヤー(視点)アップデート
今までは、GORINでは、効率化を追い求めて来ました。
ともすれば、効率化ゆえにシュリンクしてしまうデジタルマーケティングですが、それでいいのか、という判断は悩ましいところです。

これからは、MUGENでは、効率化に加え、ビジネスの成長も見ていきます。
デジタルマーケティングの成長、事業の成長、ビジネスの成長・・広げテイク、という考え方も加えることで、より現実に即した打ち手が可能となります。
公式回答:生活者の行動様式
Googleによると、毎年10%、検索ボリュームが伸びているそうです。
さらに、登録しているKWや広告とマッチしない検索語句の割合も一定程度あるらしいです。


検索の使われ方に合わせて、検索広告もアップデートすべきではないでしょうか。とのことです。

邪推:伸び悩む売り上げ
Googleの会計は年〆ですが、2018年のSearch部門の売り上げは、2017年とさほど差がなかったそうです。
一方で、Display&Video領域は大きく伸長した、とのこと。


・GORINを実践する企業が増えれば増えるほど効率化が進み、結果として費用の圧縮が起こり売り上げが伸びない
・見込み顧客を取るならデータを活用した配信だ!と安直で危険な流れができる
・検索行動を誘発する、認知/想起や好意を高めるのは動画やバナーなのでそちらに予算を振る
・CRMで色々できるようになったから効率はともかく手を出してみる
なんてことは想像通りな訳で、結果として検索広告の予算が伸びなかったのだと思われます。

見込み顧客文脈で、検索広告でも実はビジネスのスケールまで狙えますよ(だからお金ください)、といった意思が、少なくとも米国内では働いてるようです。
日本国内では、少なくともスペシャリスト達からはそのような印象は受けません。むしろ、導入実績をせかされている(Costの大小ではなく導入件数を求められている)らしいですが・・。
MUGENについて学ぶ
MUGEN概要

一言で言えば、価値のあるインプレッションを取りに行くためにできることを全部やりましょう、というだけの話です。
ユーザーとの接触機会を広げ、最適化を図る。その素地である効率化は機械学習(GORIN)で進んだ。だから大丈夫!そんな感じです。
MUGENを構成する要素は3つです。
①入札戦略/Bidding ②リーチ/Trigering ③広告品質/Relevance
すべてを組み合わせることで、“リーチ拡大”・“効率化”を実現します。

トライフォースを彷彿とさせるイメージ図・・。
構成3要素について、それぞれ見ていきます。
Bidding Excellence【入札戦略】
内容はGORINの通りです。
DDA/Data Driven Attribution モデルにより中間パスも評価し、
Smart Bidding/スマート自動入札 によりKPIに沿った入札を行う。
スマート自動入札で選べる項目のうち、eCPCが無くなるかも、というのが新しいアナウンスです。
(正直、反発が大きいはずなのでなくならないとは思いますが・・)
▼選べる入札方法
区分 | 入札戦略 | KPI | 目的 |
パフォーマンス | 拡張CPC(eCPC) | コンバージョン数 (Conversions) | 指定した上限CPC以内で コンバージョン数最大化 |
パフォーマンス | コンバージョン数最大化 (MaxConversions) | コンバージョン数 (Conversions) | 指定した予算以内で コンバージョン数最大化 |
パフォーマンス | 目標コンバージョン単価 (tCPA:TargetCPA) | コンバージョン数 (Conversions) | 指定したCPA以内で コンバージョン数最大化 |
パフォーマンス | 目標広告費用対効果 (tROAS:TargetROAS) | コンバージョン価値 (ConversionValue) | 指定したROAS以内で コンバージョン価値最大化 |
ブランド | 目標インプレッションシェア (TargetImpressionShare) | インプレッションシェア (IS:ImpressionShare) | 指定した予算以内で インプレッションシェア獲得 |
ブランド | クリック数最大化 (MaxClicks) | クリック数 (Clicks) | 指定した予算以内で クリック数最大化 |
impシェアの話は、このリリースを参考に、ご自身のアカウントで確かめて見てから考えるのが良いかとおもいます。
Trigering Excellence【リーチ】
GORINのリーチは、狙ったところにちゃんと届ける、という意味合いでした。
MUGENのリーチは、狙うところを広げて行く、という意味なので、GORINとは全く異なります。
具体的な機能について端的にいってしまえば、DSAを使いましょう、そのためにアカウント構造も変えましょう、という話になります。
DSAについて
DSA/DAS(Dynamic Search Ads/Dynamic Ads for Search 動的検索広告)
指定したURLを元に、そのURLと関係するKWが検索された時に、タイトルを自動生成し、該当ページに飛ばす広告を出す、という機能です。
URLはいくつか、サイト全体であっても指定できるため、1ページ指定でない限り、キーワードをベースに関連性の高いLPと広告文タイトルをサイトから生成し、広告を配信する流れになります。
予期しないKW(特に、想定していなかったが除外すべきだったKW)で広告が出ることがあるので、どんなにゆるいクライアント/企業であってもウォッチが必要になります。

アカウント構造の話
GoogleのDSAはグループ・キャンペーンとも設定可能、Yahoo!のDASはキャンペーン単位での設定のみ可能です。
ですので、YGで構造を合わせたい場合にはキャンペーン単位で設定することになります。
・・別段合わせる意味もないのですが・・・。
理想的なアカウント構造は、ビジネスモデル(商材の数とシナジーの有無・指名検索が重要かどうか)により異なります。
ですので、一例として、汎用性の高いアカウント構造をご紹介します。
構造①なんでもお任せパターン

構造②指名は別で持っておきたいパターン(Google非推奨※)
予算管理がキャンペーン単位のため、リーチを広げるDSAの幅もコントロールできる。代わりに、DSAの方が一般の手動管理KWよりも成果がいい場合も人間が手を加えないとアロケーションができない。

※商材が多い場合は成果の切り分けやKW管理の考え方から Googleは推奨していません
手動でKWを管理するグループに加えて、自動でKWを管理して行くDSAをうまく使い分けましょう、ということです。
Relevance Excellence【広告品質】
CTRの高い広告を出し品質を高めることで入札単価を下げましょう、という話で、要素は4つです。
1 テーマに沿った広告グループ構成及び広告生成(HAGAKURE同様)
2 レスポンシブ検索広告
3 広告カスタマイザ
4 キーワード挿入機能
レスポンシブ検索広告(RSA)
事前に設定したタイトル3-15個、説明文2-4個について、KWに応じて組み合わせて掲出することができる機能です。
ちなみにこの機能を使うと、タイトルが3つまで出るようになる・・らしいのですが、その割合は未だ1%をきっているようです(19年3月1日時点)

RSA内の評価は、相対的に良い、平均、低い、程度しか見れません。機械の示す成果やKWと流入後の行動を見つつ、示唆を出して考えて行くのは人間の仕事です。
広告カスタマイザ

検索語句、閲覧状況、使用デバイス、広告閲覧時間などの条件に応じて、オークションごとに広告を最適化する機能です。
え?それ普通じゃない?という説明文ですが、実際には、任意のキーワードを広告文に足すことができる、という意味です。
事前にスプレッドシート側でフィード(取扱商品など)を用意しておき、それらが検索された時に、【KW】セール中、などのタイトルを出すことができます。
大量入稿が必要ないのは嬉しい限りです。
キーワード挿入機能
検索されたKWを広告文に追加してしまう機能です。例えば下記の感じで。

最終的なイメージは広告カスタマイザと似ていますが、こちらは広告表示につながった(広告グループ内)キーワードを挿入するのが特徴です。部分一致でも使えます!!
MUGENまとめと今後の展望
まとめ
HAGAKURE/GORINができていることは大前提です。無下に扱うと悲惨なことになります。
その上で、ビジネス伸長のため、生活者とのタッチポイントを増やすため、優良見込み顧客に対し価値のあるリーチを取りに行くのがMUGENです。
3つのExcellenceをうまく使い、成果改善を測ることができるようになりました。
気をつけるべきこと
Googleの利益になるからGoogleが提唱しているわけです。
もちろん、最終的に生活者にとって便利になることは当然ですが、その過程で搾取される側にならないようにお気をつけください。
煩雑な事務作業から解放されたので、次のフェーズとして、自らの運用知見を持ってGoogleを使い倒す、そんなイメージでいるべきだと考えています。
極端な話ですが、Googleの言いなりになっている代理店担当者であれば、そこに払うマージンは別のことに使うべきです。例えば、1年かけてインハウス化を支援してもらう、など。
今後の展望
4月(Googleの2Q)からMUGENが本格導入、7月(Googleの3Q)に追加アップデートが行われる予定だそうです。
無難に回していればそれで何の問題もない、という無気力状態に近いものでない限り、トライ&エラーで取り組んで行くのが良いと思います。